だって愛してる

February,22,2005


俺の名は播磨拳児。ハリマ☆ハリオというPNの只今売り出し中の漫画家だ。

この仕事というのはえてして時間が不規則になりやすい。
今日は今日とて編集との打ち合わせがこんな夜中までかかっちまった。

「ったく、あいつ…」
見上げた安アパートの一室だけまだ灯りの点った部屋に向かって誰に言うでもなく呟く。
鉄がむき出しの階段を近所迷惑にならないようなるべく音を立てないように上って
俺はその部屋に向かい、ポケットから取り出した鍵でドアを開けて中に入る。

そこには案の定、炬燵の中で夢の国へ旅立ってるあいつの姿があった。

「…おい、んなとこで寝ると風邪引くぞ」
そう言って俺はこいつの肩を揺すって起こそうとするが、まるで起きる気配がない。
いわゆる完全に爆睡中というやつだ。こうなるともういつものアレしかない。

「遅くなったら先に寝てろっていつも言ってんだろうがよ…」
そう俺はぼやきながらこの出逢った頃より結構重くなった気がするお姫様を抱き上げ
安物のダブルベッドに横たえる。まぁ俺の体力が魔王と呼ばれたあの頃と
机に座って描き仕事ばっかの今とじゃあ落ちてるだけなのかも知れねぇが…

「…もし花井のヤローと今やりあったらひとたまりもねぇかもしれねぇな」
ふと今でも鍛錬を怠る時がないと聞く昔の級友の顔を思い浮かべ自嘲気味に呟く。
自然と奴と何度もやり合ったあの頃の記憶が蘇ってくる。本当にいろんな事があった。
そして――


  その結果、今ここに俺とこいつがいるわけだ。


そう、俺は居場所を見つけたのだ。あの幾度も拳を交え合った熱く燃えたぎった日々が
全然懐かしくないと言えば嘘になるが、それはきっとただの感傷。
今の俺は、今この時を生きているのだ。

(こいつと一緒に、な…)
そう思いながらこいつの髪を撫でる。この気持ちよさそうに眠る寝顔を
俺は守らなくちゃならねぇ…俺はベッドの横を離れ、机の前に腰掛ける。

「さーてと、一丁気合い入れてやるかな」
まずは景気づけにさっき編集の奴から渡された今月分のファンレターにでも目を通すか…
ん?今日は妙に袋が重いと思ったらなんか綺麗に包まれた箱みたいなのが入ってやがる。
えーっと、中身は…手紙と、なんだこりゃ、チョコレート?まぁ2月だからなぁ。
しかし差出人の名前がねぇ…どこの誰が送ったんだかわかんねぇもん
おっかなくて食えるかよ。まぁとにかくとりあえず手紙だけでも読んでみ…


 そこに書かれていたのはただ一言、「お体に気を付けて頑張って下さい」とだけ。
 そしてその筆跡は明らかに見覚えのあるもので。


「…やってくれるじゃねーか」
俺はベッドの方へ顔を見やる。あいつは相変わらず気持ちよさそうに眠ってて。

――そのチョコレートを一つ頬張ると、いつかと同じ味がした。


おしまい。


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